みなさん、「火事場の馬鹿力」という言葉をご存知でしょうか。この言葉が示すように、我々人間の運動能力というものは、身体の解剖学的構造によって規定される限界と、随意的に発揮できる限界との間に差があることはよく知られている通りです。特に、随意的に発揮できる筋力は老化や運動不足で低下することが知られており、コロナ禍で多くの人々が失った運動能力の一つであるという報告もあるほどです。
今回、民製の小型振動子を用いて、随意発揮筋力増大装置を開発しました。今回注目したのは握力で、特に、扉を開くためにドアノブを握る際の握力に注目しました。開扉動作時に手首の腱を振動刺激することで、開扉動作時の握力を増大させることに成功しました。
この装置の狙いは2つあります。1つは大きな力を発揮できるようになることです。これ自体が老化などによって低下した筋力をアシストする役割があります。もう1つは、「自身の筋が大きな力を発揮すること」自体に筋力低下を防げる可能性があることです。握力は前腕にとどまらず、全身の筋力の指標です。握力が低下すると心筋梗塞や脳卒中、認知症のリスクまで増加することが報告されています。握力低下を防止することは、活力低下を防止し、生活習慣病やフレイルといった社会問題の抑止につながることが期待されます。
筋力低下は早ければ40代から始まります。そんな中、扉の開閉は多い日では1日30回以上実施するような、日常生活の中で習慣化された運動です。日々の扉の開閉を通じて握力低下を防止できれば、家具との能動的なインタラクションを通じて生活習慣病に対処する新しい時代への扉が開くと考えています。
高齢者
握力低下の防止、フレイルの予防
家具、特に扉の新しい可能性について探究しています。
この作品を共有