神経筋疾患の一つであるパーキンソン疾患とは一体どういうものなのか。あるいはリハビリ中の患者の身体はどういう状況にあるのか。他者の身体的・感覚的特性を理解することは、リハビリテーションやスポーツトレーニングといった場面において円滑な意思疎通を行う上で重要です。
しかしながら、こうした他者の運動に伴う身体内部の状態、すなわち体性感覚情報を伝達・保存することは難しく、かつ言語で理解することが困難です。
そこで本作品では、自身の筋活動に基づき相手の筋をコントロールしたり、逆に乗っ取られたりすることができる運動感覚共有ウェアラブルデバイス”bioSync”を開発しました。イヤホンジャックを用いて相手のbioSyncと接続することで、生体信号計測と筋電気刺激により自身の筋活動を相手の筋組織上で本質的に再現し同期することができます。これを実現するために、同じ電極を通して筋活動の計測と刺激を同時に行うことができる放電回路を備えた新しい生体電極システムを開発しました。
近未来を描いたアニメやSF映画で多く見られる「電極で身体を接続する」「自分の身体のコントロールを盗み取られる」といった新しいインタラクションの実現と表現のみならず、実社会の問題を解決するツールとしての利用を試みています。特に身体接続技術が最も有用となるリハビリテーションの分野において大学病院と共同で研究を進めています。歩行機能回復訓練では適切な蹴り出しタイミングや筋発揮箇所の確認と教示が重要となりますが、こうした身体内部の情報を言葉で表現することは困難です。そこで制作した作品を使って理学療法士と患者の筋活動を神経レベルで接続・共有することで、両者のより直感的で円滑な意思疎通を支援します。
また、パーキンソン病に見られる手の震えといった神経筋疾患をプロダクトデザイナの身体に転送・再現し、疾患の身体知(暗黙知)を提供することで患者さんが利用する日用品のユーザビリティを改善する新しいバーチャルリアリティの取り組みを実施しています。
身体接続技術を用いたリハビリテーション支援分野に関わる理学療法士、
神経筋疾患の身体知に基づくプロダクトデザイン支援分野に関わるプロダクトデザイナ、
身体性融合に基づく新しいメディア表現。
開発した生体電極回路による「人と人」「人とモノ」「人とインターネット」の新しい関わり方、
筋活動共有に基づくリハビリテーション支援や運動覚VRによるプロダクトデザイン支援といった、これまで注目されてこなかった感覚モダリティに着目した新しいソーシャル・バーチャルリアリティ技術の提唱。
人と人、人と機械の関わりについて研究しています。(筑波大学 サイバニクス研究センター 人工知能研究室、協力: 芸術系 情報デザイン研究室)
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