波間に揺れるイソギンチャクの触手を見る時、原始的な生物の存在を感じる。2014年のGenome Researchで発表された研究の中で、イソギンチャクは半分植物、半分動物であることが分かった。原始的であるからこそ多様性を内包したその生態に、人間が理解できない混沌の中に、生物らしさ、美しさを感じるものがあるのではないか。Luminescent Tentaclesは、このイソギンチャクの触手をモチーフにして制作したインタラクティブアート作品である。触手にあたる256個のアクチュエータはバイオメタル(形状記憶合金)によって駆動し、かざした手の動きに合わせて、先端の光とともに柔らかく曲がる。それぞれのアクチュエータは3本のバイオメタルによって駆動し、印加する電流の組み合わせによって6方向に曲がることができる。アクチュエータ毎に1個のマイコンを実装して分散処理することで、多数のアクチュエータを滑らかに制御することを可能にした。画像解析には Kinectセンサーを利用し、制御プログラムでは流体シミュレーションをベースとして、波紋のように触手の動きが伝搬する表現を実現した。手の動きをトリガーとし、ソフトウェアシンセサイザーから発生する音によって音楽が奏でられる。その様子は、海に漂うイソギンチャクの触手のようでもあれば、風になびく葦をも想像させる。暗い空間に浮かび上がる光のまたたきと微かな動きは、どこかで見た風景、夢で見たような風景を思い起こさせる。
続きを読む→実体の動きの面白さに興味を持つ人。アートやホビーだけでなく、インターフェース研究やロボット研究を行っている人。
今後さらに発達するロボット技術は、様々なものに動きを与える。それはコミュニケーションロボットのようなものから、これまで動きを持つとは考えられなかったものにまで波及すると思われる。Luminescent Tentaclesでは、ただ動くのではなく、美しく動くことに着目した研究である。アート表現としてだけでなく、インターフェースやロボットのサーフェースへの応用可能性があると考えている。
1973年生まれ、山口県出身。制作会社にて映像制作、印刷物制作、CD-ROM制作、ウェブ制作を経験後、フリーとして活動。演劇やダンスなどの劇空間における映像演出を多く手がける。映像以外にもロボット技術を応用したインタラクティブアート作品を制作しており、独自開発の形状記憶合金アクチュエータを利用して「ざわめき」「うごめき」の表現を生み出している。現在、金沢美術工芸大学准教授。博士(芸術工学)。
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