INTERVIEW 01

GUGEN2013 大賞作品「handiii」開発者インタビュー

GUGEN2013で大賞を獲得した筋電義手「handiii」。既存の義手とはまったく違った斬新なデザインとコストの安さを実現したこの製品は、コンテスト終了後も世間から大きな注目を集めました。その開発チーム「exiii」は現在、ハードウェアベンチャーを立ち上げてhandiiiの実用化に取り組んでいます。今までにない画期的なプロダクトを生み出したexiiiの3人に、チーム結成からGUGEN2013出場へと至るプロセス、そして受賞後の活動などについてお聞きしました。

exiii 近藤玄大氏/小西哲哉氏/山浦博志氏

●チーム結成の経緯をお聞かせください

近藤 私は大学時代に筋電制御技術の研究を行っていて、その研究室で先輩の山浦に出会いました。その後、2人は違う会社のエンジニアとなったのですが、入社して3年経った2013年の4月頃に、私はまた筋電義手の開発をやりたいと思い始めました。そこで、「仲間を集めなくては」と考えていたところ、山浦が自作のプロダクトの成果をFacebookに寄稿していることを知りました。私はソフトウェアエンジニアで、彼はハードウェアエンジニアということで、一緒にやれば義手を作れるのではないかと軽い気持ちで声をかけたのがきっかけですね。小西は山浦と同じ会社のデザイナーということで出会いました。ソフトとハード、デザインというバランスのいい組み合わせでチームを組んで6月に筋電義手「handiii」の開発を開始し、2013年8月に行われたジェームズダイソンアワードで2位を受賞しました。

●既存の義手とは違うhandiiiの特長を教えてください。

近藤 ひとつめは安価であることです。これまでの筋電義手は寡占市場で、職人による手作業で製造する場合が多く、価格は150万円以上もしました。そこで、3Dプリンタとスマートフォンという新しいテクノロジーを使えば安くできるのではないか、と考えて作ったのがhandiiiです。関節部分のモーターの数をできるだけ少なくして、外装は3Dプリンタで作り、スマートフォンアプリで制御することにより、既存の義手よりも大幅な低コストを実現しました。そしてもうひとつの売りは、デザイン性を重視したことです。既存の義手は、義手であることを隠すため、できるだけ本物の手を再現しようとしていましたが、handiiiは、逆に義手であることを積極的にアピールできるようなデザインにしようと考えました。それによって、製造工程における手作業の時間も減ってコストも減らせますし、デザインを選ぶ楽しさも味わえます。また、機能的にも、指先にFeliCaチップを埋め込むなど、手がないからこそできるような機能を持たせることによって、障害者がより積極的に社会進出できるようにしていきたいと思いました。

●handiiiの開発はどのように進めましたか?

近藤 ジェームズダイソンアワードに応募した時点では、まだアイデアスケッチしかできていなかったのですが、せっかくここまで作ったのだから、3人の力を融合させて実際に形にしたいと思い、試作機の完成を目指しました。3人とも仕事を持っていて、しかも私は東京で、山浦と小西は大阪と、住む場所も離れていたので、週に1~2回、Skypeでミーティングをして進捗報告を行いました。3人ともうまく得意分野がバラけていたので、場所が離れていても開発を進めることは可能でしたが、ハードウェアなので、ソフトウェアのようにネットワーク上で成果物を共有することができません。ジェームズダイソンアワードの次は、11月にMaker Faireへの出展を目指していたのですが、その直前は1週間に2往復くらい宅配便でやりとりして、東京で3Dプリンターで出力して、それを送るというようなことを繰り返しました。

●GUGEN2013に応募したのはどんな理由ですか?

近藤 当時、私たち3人はまだサラリーマンということで、なかなかhandiiiを発表する場がありませんでした。賞金も魅力でしたが、とにかく発表の場が欲しかったというのがGUGENに応募した一番の理由です。これまで日本ではハードウェアのコンテストがほとんどありませんでしたが、GUGENのように発表する場が整ってきたのは、作り手としてはとてもうれしいことです。Kickstarterなどインターネット上でアピールするのとは違って、GUGENなら実際にプロダクトを見て、触って評価してもらえます。たまたまこのとき、GUGENの作品展に手に障害を持つ方が来て、実際に操作していただいて感想を聞くこともできました。もちろん大賞を獲得したこともうれしいですが、デモを行って色々な人と知り合えたことも大きかったです。

●GUGENに応募するにあたって工夫した点は?

小西 もっとも大きく変えたのはコンセプトです。それまでは低コストで作れる点だけをアピールしていましたが、そこからさらにコンセプトを膨らませて、「デザインのバリエーションが楽しさにつながる」という点を強調しました。その考えを伝えるため、CGで色々なデザインのバリエーションを作りました。handiiiのデザインで意識したのは、障害を持つ人が自分の個性を表に出していけるようなデザインです。handiiiならば、気分によって好きな色に変えることもできるし、指先にイヤホンを埋め込んだり、スマートフォンを内蔵させたりすることだって可能です。障害を持った人が羨ましがられるような、楽しさを感じられるデザインにしました。

●会社員として本業を持ちながら開発を進めるのは大変な苦労があったと思いますが、どのようにモチベーションを維持したのでしょうか?

小西 ちょうどその頃、会社でやっていた仕事が先行開発で、モノを作り上げても一般消費者に届かないことに悩みを感じていたのですが、handiiiの場合は「ユーザーの顔が見える」という点で、同じモノ作りだけどまったく違う魅力を感じました。だから、会社の仕事で疲れたらhandiiiの開発を行い、そちらで行き詰まったら会社の仕事に戻る、というようにうまくバランスが取れていたと思います。

山浦 私の場合は機械設計が趣味で、会社に勤め始めた頃から、自分でプロダクトを作ってはFacebookに投稿するということを定期的に行っていました。休日もハードウェアの開発ばかりしている生活ですね。私の場合はそれが試金石で、「そういう生活が嫌になるのであれば、それを仕事にするのはやめよう」と昔から思っていました。実際にプライベートでも開発ばかりして、まったく苦にならなかったので、「これなら一生やっていけるな」と確信を持つことができました。

●GUGEN終了後から起業に至るまでの経緯をお聞かせください。

近藤 GUGENに応募してよかった点は、なんといっても色々な人とのネットワークができたことです。投資家や部品メーカーの方、そして私たちと同じ立場でモノを作っているプレーヤー同士のネットワークもできました。そういった方々から支援の声もいただき、色々と注目されて、今後どうしようかと色々悩みました。2014年3月には3人でアメリカに行って、さまざまな人の意見も聴きました。そしてアメリカから帰ってきてからすぐ、手に障害を持つ方にhandiiiを試していただき、喜びの声を聞いた瞬間に、起業することを決めました。それまで勤めていた会社を辞めるのは不安がありましたが、自分が考えたものを作って、ユーザーに見せてフィードバックをもらうというサイクルは実に楽しく、純粋にそこに魅力を感じて起業を決めました。

●handiiiは今後、どのように展開していく予定でしょうか?

近藤 現在、手に障害がある方の協力を得ながら製品化に取り組んでいて、2015年中には、試作機ではなく日常生活で使っていただけるものを作りたいと考えています。数は少なくてもいいので、とにかく実用化すれば、そこから広がる話もあると思います。また、handiiiを開発していく中で、色々な技術が培われると思いますので、そこからまったく違う製品に応用することも考えています。

●これからGUGENに挑戦しようと考えている開発者に向けて、一言アドバイスをお願いします。

近藤 モノ作りにはストーリーが大事だと思っています。handiiiの場合は、「義手をファッションとして捉える」というストーリーがあったからこそ、色々な人に興味を持っていただけました。GUGENには「モノ作りでストーリーを作る」という意識でエントリーしたほうがいいと思います。

山浦 技術を持っている人はたくさんいると思いますが、「このような技術を持っている」とアピールするだけで終わるのではなく、世の中の課題解決につなげて自分のプロダクトを広げていってほしいと思います。また、技術的に未熟な人も、恥ずかしがらずにSNSなどで成果をオープンにしていくことをおすすめします。そのような取り組みを継続していると、気付いた人がアドバイスをくれる場合もあって、私の場合はそうやって必要なことを学んでいきました。あとは、他人に評価されることも大事で、そうすることで自分の作品を練り込むことができるし、もしかしたら仲間ができるかもしれません。そのような場としてコンテストを利用してほしいですね。